【対談】PMDデザイナー マリエ x RETOY'S編集長 エナ 2人が語る"ファッション談義"を初公開

PMDデザイナー マリエとRETOY’S編集長 エナによる”ファッション談義”。会うといつも何時間も熱く語るふたり。インタビューやNYC、RETOY’Sでの様々なコラボレーションの源は、このふたりの”ファッション談義”から始まります。その暑すぎるファッション愛を初公開!

今回、対談場所としておじゃまさせて頂いたのは南青山にある「GOOD LIFE FACTORY(グッド ライフ ファクトリー)」。毎日食べたい、本当においしいサラダ屋さん。ふたりも真剣に選びます。オーダーしたメニューは後ほど。

Ena(E):今日はマリエちゃんを迎えて、私たち二人が普段ファッションについて喋ってる、”いつもの感じ”で話していこうと思ってます!今後この場所で色んな人を迎えて、最終的にみんなを巻き込んで、Webの中だけじゃなくリアルな世界で何かが一緒にできたらいいなと思ってる。今日はそのエピソードゼロ的な感じだね。

Marie(M):いいね。この間のクリスマスフォトストーリー(マリエ×RETOY’S「PASCAL MARIE DESMARAIS」)みたいに、一年に数回でもずっと続けてたら、RETOY’S × マリエ × iPhoneケースとか、キーホルダーとか、オーガニックブランドと染め物してみました、とか色々広がっていくよね。遊び感覚で一つ何かできても面白いしね。

E:そう。私はWebをやってるからこそリアルな部分って必要だと思うんだよね。WebはWebだけで完結しちゃいけない。もっと入り口を広くとって、「ファッションってそんな難しいものじゃないんだよ」って伝えたい。「とりあえず服を着てみようよ、とりあえず本物を触ってみようよ!」って。どうしてこれが良いものなのか分からなかったら分かる人に聞いちゃえばいい。

M:うんうん。

E:もうちょっと昔ってカッコいい大人たちがそういう事をたくさん教えてくれたんだよね。こういうテイストが好きならこのお店行けばいいよ、あそこのもカッコいいよって。今はWebで簡単に何でも調べられちゃう世の中になってるから、何が本当に良いのか、本質はどこにあるのか、っていうのが見えなくなってる気がするな。

M:それで言うと私は最近クエスチョンが一つあるんだけど、これエナさんにも質問したい!

E:なになに?

M:東京ってさ、世界一のスクラップ&ビルドの街じゃない?どんどん景色も街も変わっていく。だからなのかもしれないけど、原宿、渋谷っていういわゆるおしゃれスポットって呼ばれる街に昔はもっとカッコいい人が多かったなと思うの。ざっと20年くらい前かな、私が中学生くらいの時は「わ!あのひとすっごいおしゃれ!」って思える人がいたんだけど、今は街歩いててもなーんにも面白くない。可愛い人もカッコいい人も消えちゃったって感じ。私にとって「あのファッションまねしたい!」って思える人がいないんだよ。でもそれって自分の目が変わってしまったのか、街が変わったのか、教えてほしいの。エナさんもそう感じることある?

E:昔はさ、「服を選ぶ」時のポイントが「これを着てなきゃダサイ」だったの。当時は毎シーズン毎シーズン流行もあって、それを着こなしている人たち=おしゃれで、それを着ていない人=ダサイってはっきり分かれてた。逆にわかりやすかったのかもしれないね。

M:例えば?どのブランドが流行ってたとかは?

E:私が音楽系だったっていうのもあるけど、パンクスタイルからモッズが流行ったり、音楽とファッションが確実にリンクしてた。そこからMasaki Matsushima(マサキマツシマ)みたいな黒っぽいものがきたりね。

M:UNDERCOVER(アンダーカバー)とかも?

E:そうそう。それで頑張ってアルバイト代でY’Sを買うとかさ。10代20代の子がこぞって何万もするコートや靴や鞄を着てたなー。それを着てなきゃダサイって思われるっていう空気があったから。

M:なるほどね~。

E:今の原宿の子のファッションも主張はすごく感じるんだ。でも、東コレ(東京コレクション)の時期に来日していた海外の媒体が東京コレクションスナップって出してたのが、東コレの会場に来てる人でもなんでもなくて、原宿キッズのスナップがバーッと並んでたの。「え!これは違うでしょ!」って思った(笑)確かに海外から見たら日本独自のファッションに感じるんだろうけど、あれを”東京のファッション”として一括りにされるのは違うんじゃないかなーって。

M:うーん、面白味はあるんだけどね。

E:そうそう。でもそれは東京のファッションという中の一つの側面なだけじゃない?東京にはそれこそ色んな人がいるのに、みんながああいう格好をしてるって思われるとちょっとね。昔海外の人に「東京の人はみんな着物を着てると思ってた」って言われたくらいのカルチャーショックだよ(笑)

M:むしろ着て歩きたいけどね(笑)

E:海外コレクションに来ている日本のエディターってみんな地味な格好をしてるから、どうせなら着物着て行けばいいのにって思う。日本を代表して世界に情報を発信するんだったらそれくらいの気持ちがあってもいいんじゃないって。

M:そういう意識の人ってすごい少ないかも。

E:昔は雑誌も色んな人が出ていて、クリエイターもみんなおしゃれに気を使ってた。「こんな大人になりたい」「こんな人になりたい」っていう憧れがまずあって、そこがファッションと繋がっていた気がする。音楽の人もいればアートの人もいたし。20年前はそんな人たちが山ほどいたなー。

M:そういう時代だったんだね。

E:そういう人たちを見て、どうしても欲しい服があっても地元(大阪)にはお店がないし今みたいにネットで買えないから、雑誌で調べてお店に電話するみたいな。そこまでしてもどうしても欲しいって言う気持ちやアイテムがあったな。

M:それあったね~!雑誌に書いてある住所メモって、電信柱に書いてある住所見上げながら、「あ、ここ曲がったらあるんじゃない!?」とか。私今でもすごい土地勘あるんだけど住所だけで目的地にたどり着けるのは地道にお店を住所から探してた経験があるからなんだよね(笑)

E:すごい役に立ってる(笑)

M:今私が「これってどうなの?」って思っていることが一つあって。今って、有名になるためだけに目立つファッションをしているアーティストばっかりじゃない?海外のアーティストでも、「I love japanese culture!」みたいな感じの人たくさんいるけど、ファッションアイコンみたいに思われてる日本のアーティストも、会ってみたら普段のファッションは超普通の女の子なわけよ。

E:うんうん。

M:いやさ、別に普段から羽根つけて歩いてって言ってるわけじゃないんだけど(笑)、そのファッションって売れるためだけにやってたの?好きでやってたんじゃないんだ?って思っちゃう。例えば、野宮真貴さんっていつ会っても「うわ、かっこいいー!」みたいな突き抜けてる感じあるじゃん。

E:そうだね、明らかにどこにいても”野宮真貴”さんだもんね。

M:「やっぱり普段から網タイツはくんだ!」みたいなね。すごく確立したアイデンティティを感じるわけ。今の表現者ってそこのアイデンティティがなくなってきてるんじゃないかな?人前に出る人間が「お金欲しい、モテたい、売れたい」っていう気持ちでエンターテインメントを作っちゃってるんだよね。そこを変えないと、アイデンティティロスがどんどん増えていくと思う。

E:なるほどね。

M:今街を歩いている女の子、私いくらでも絵に描けるもん。ヘアスタイルはこうでファッションはこうで…ってみんなおんなじ。キュプラ素材のちょっとリラックスしたセンターパンツ履いて、厚手のコート着て…っていうのがどこ見てもいるの。

E:なんだろ、おしゃれじゃなくて、おしゃれっぽく見える、かわいい感じのモテ系みたいな?

M:そう。自分が良ければそれで全然いいんだけど、そういう画一的なファッションが街に増えてる理由が自分でモノづくりするようになってはっきりわかっちゃったの。

E:というと?

M:作ってる側がそればっかりしか作らないから。

E:それが売れるからっていうこと?

M:そもそもそれを売るつもりで作ってるの。まず生地屋に行ったら同じ素材のものばっかり出してくるの。

E:あー、なるほど。

M:要は、在庫出してきてるわけよ。

E:それを売り切らないといけないわけね。

M:そう、売らなきゃいけないものを安い値段で出してて、買い付けの業者はもちろん多くて安い生地を買うわけじゃん。私も最初は、「なんだよ~、みんな同じような格好して同じもの買ってさ!」て思ってたんだけど、いや違う!って。服を作る側が同じものばかり作ってるから、受け取る側はその選択肢しかないんだなって。さらに言うと、買う側のみんながこのソサエティにずっぽりハマってることに気付いてないわけ!あー、すごい興奮してきちゃった(笑)

E:生産の時点から仕組まれているということね。なるほどね。

M:そう!誰がいけないっていうわけじゃないんだけど、一定の方向にこの流れが進んでて、さらにこの輪がどんどん大きくなってるわけ。大量生産大量生産って感じで。

E:「このサテンパンツが流行ります」って言われたらみんながサテンパンツを作るってことね。私たちは展示会で気づくけど、もはや色も一緒に見えるそのサテンパンツを、同じようなトルソーにスタイリングされて同じように店頭に並ぶ。一般の人は「このブランドもあそこのブランドもサテンパンツばっかり…」ってなるわけだよね。じゃあどこで買うのかっていったらそこが好きなブランドかどうかってだけ。

M:あとポイントカードね(笑)ほんとだよ!?ここのポイントカードつくからここで買おうって、あるよ(笑)

E:(笑)

M:自分のアイデンティティを守りたいんだったら、”誰に何をコントロールされてるか”っていうことを本当に見つめなおさないとダメ。アイデンティティってそういうところから生まれると思う。私最近ずっと言いたかったことが今言えてすっごい嬉しい、なんかありがとう(笑)

E;いえいえ(笑)

M:さっき「あの人カッコいい!おしゃれ!」って思える人がいないって言ったのにも繋がると思うんだけど、自分のアイデンティティっていうものが、社会の仕組みも含めて四方八方から失わざるを得なくなってる。自分が失いたくて失ってるわけじゃないのに、かわいそうだなって。

E:情報社会が一気に発展したから、今の彼らにとっては情報が”降ってくる”ことが当たり前になってるんだよね。”自分で探す”ってことを知らずに育ってきてる。うちのスタッフでも、検索すればいくらでも答えが出てくるような質問をたくさんしてくるのよ(笑)、「一回自分で調べて、わからなかったら聞こうか」って思う。

M:それはすっごくわかる。私もさ、授業で教えたりしながら思うんだけど、みんな情報があることが当たり前になってるから調べなくなってるよね。いつでも調べられるから調べない、というか(笑)

E:自分が媒体をやっていて日々思うのは”本当に伝えたいことが彼らに伝わってるのか”ってこと。今の時代、どういう風にしてあげたらきちんと伝わるのかっていつも考えてる。湯水のようにぼんぼん情報を与えるんじゃなくて、これくらいのスタンスで、これくらいの分量だったらみんな理解できるかな?とかね。

M:うんうん。大事だよね。

E:「RETOY’S」っていう媒体を見て、「実際に買いに行きたい、買えなくてもとりあえず本物を見てみたい」っていうリアルな行動を起こしてもらうために情報はあると思ってて。ファッションなんてそれこそ実際に袖を通してみないとわからないじゃない?実際のシルエットが自分に合うのかどうか、そうやって袖を通した経験の積み重ねで自分っていうものがわかっていくはず。ブランドの情報をたくさん知ってる子でも、「そこの服着たことある?」って聞いたら「ないです」って。「お店は行ったことある?」「ないです」って。それって知ってるって言っていいの?って思うな。

M:まあねー、そういうことになってくるよね。

E:買えないまでも、「着てみたい」とか思わないの?って。今は買えないかもしれない、今は自分に似合わないかもしれない。でも、私は昔雑誌で、Jil Sander(ジル・サンダー)だったかな?コートがすごくカッコよかったわけ。値段を見ると20万!え!買えない!みたいな(笑)でも「いつかこれを着れる大人になりたい」「これが似合う大人になりたい」みたいな気持ちがすごくあったな、もちろんお金のことだけじゃなくてね。

M:やっぱり私たち似てるよね。私もそういう気持ちよくわかる。

E:そういう漠然とした、「誰かになりたい」とかじゃなくて「こういう風なのが似合う大人になりたい」「これに袖を通せる自分になりたい」っていうのがあった。でも今の子たちは情報に浸かりすぎてて、触れたことないのに知ってる気になって、それで満足してる。「これはもう知ってる」って体が思っちゃってるんだよね。だから実際着るっていう体験まで辿り着かないのかな?



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