Rick Owens S/S 2023 Men's Collection「EDFU」燃え盛る太陽が空を横切り、何度も何度も地面に落下するような演出は太古の昔から繰り返されてきた無意味な破壊を表現

Rick Owens(リック オウエンス)2023年春夏メンズコレクション「EDFU」。今シーズンのコレクションは、エジプトの神殿にちなんで名付けられた。最近エジプトに旅をした際、確固として存在する歴史のスケールの大きさに心が癒された。個人的な心配事や世界的な受難も、そのような永久不変的な物の前では些細なことに感じられ、土の上に寝転がりながら王家の谷を見下ろすのが、お気に入りの景色だった。ある文明によって建設が始まった神殿は、その後別の文明に奪われ、増築され、最終的に別の文明が完成させ、その後別の文明によって発掘された。このストイックなまでの永続性を心強く感じた。戦争やネット上での絶え間ない誹謗中傷に皆が心を痛めていると感じ、いくつかの秩序と規律を提案したいと思った。世界で最も強いと考えられている特許取得済みの繊維であるダイニーマ®を使用した蝶の羽根のような軽量さを備えたいくつかのリップストップナイロンを使用し、それに繊細な秩序を表すグリッドラインを体に与えている。静寂を保つために、ハードウェアの装飾や目に見える釦やファスナーを減らしま、私はシンプルさを求めるが、同時に世の中に多くの対立を生み出している正義や偏見をやさしく揶揄するために、誇張された形も必要だと思った。肩が極端に強調されているテーラリングは、硬く張りのあるコットン素材やレイヤードのシルクシフォン、そして派手で、もやのかかったチェック柄などで展開。コートやジャケットも硬いメッシュの切り立った肩からシフォンが垂れ下がる構造のものを作り、透明というテーマは、アパリションレザーを使用したジャケット、シャツ、ジーンズで構成されている。この牛革はなめし工程でグリセリンを使用し、ドラムを使わず自然乾燥させることで、透明に仕上がっている。ボディスーツやシャツはこれまで以上にオーバーサイズになり、シルエットはきつくウェストを絞るか、または体からできるだけ遠くへ浮くような解放的なビッグシルエットで提案している。レザーやごく薄いビスコースを使用したスキンタイトなトップスは、まるで腕を伸ばしたかのように見せる鋭い肩のものもある。昨シーズンに登場したバナナニット(抽象的なミュータントマルチアームのニット)はリブタンクで登場し、エッジを縁取るバインディングだけにまで縮小されたものもある。エジプトの滞在は、腰回りでねじれ、裾を地面に引きずるシルクのシャルムーズのシャツの上に着用した、波打つ色の筋目を与えるフェイスカバーフード付きのチュール虫除けローブを製作するきっかけとなった。デニムや何度も繰り返し使用しているピラルクの皮は、虹色に輝くスカラベ仕上げのラッカーコーティングが施された意図的にキッチュで派手なカラーパレットを採用。使用するピラルクの皮は、アマゾンの森の先住民が食料として漁獲したものの廃棄物を買い取っており、それが彼らに収入をもたらしている。BONOTTO(ボノット)社と協業して、カプセルコレクションを制作。ボノットは1912年にヴェネト州のプレアルプス山脈の直下に設立された4世代に渡る織物工場で、偶然にも世界最大のフラクサスのアートコレクションを所有している。ミニマルに仕上げたコットンと原毛を含むすべての生地は、この工場の1950年代のヴィンテージ織機で織られている。パリでデニムの職人的な仕事をしているレーベルPARADOXE(パラドックス)にデニムのいくつかのピースのコラボレーションを依頼した。彼らは、使い古され、洗われたデニムを丹念に解き、そして最終的に衣服に再装着する。そのプロセスは、まるで修道院でのレース作りのような献身的で瞑想的な印象を与えている。ルクソールの郊外にあるエドフ神殿の正面入り口の上には、悪に対する善の勝利を表すホルス神を象徴する有翼円盤の彫刻がある。今回のショーでは、燃え盛る太陽が空を横切り、何度も何度も地面に落下するような演出をしている。それは太古の昔から繰り返されてきた無意味な破壊を表している。



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